相続開始後にトラブル発生! 生前贈与の思わぬ落とし穴

『生前贈与』とは、生前に財産を譲り渡すことをいいます。
将来相続が発生したときに、相続税の対象となる相続財産を減らすことができるため、相続対策としてよく利用されています。
ところが、実際に相続が発生したときには、この生前贈与が思わぬ事態を招くケースも数多くあるのです。
思わぬ落とし穴にはまらないよう、トラブルの種を事前に把握しておきましょう。

生前贈与が無効と判断されるケース

生前贈与が無効と判断される典型例が、いわゆる『名義預金』です。
名義預金とは、預金口座の名義人と、実際に預金をした者が異なる預金をいいます。
たとえば、子に内緒で子を名義人とする預金口座を作り、生前贈与するつもりで預金をしていた、というケースがこれに該当します。
この場合、『名義預金』と判断されると、子のために貯めた預金は贈与ではなく、親の預金として扱われ、相続税の課税対象となります。
このような事態を防ぐには、入金の都度、贈与契約書を作成したり、口座名義人である子が通帳や印鑑を管理するなどの工夫をしておく必要があります。

次に、不測の事態により起こりうるのが、『死亡直前の生前贈与』です。
被相続人が亡くなる前3年以内に譲り受けた財産は、たとえ生前贈与であっても、相続財産として加算され、相続税の課税対象となります。
つまり、せっかく節税効果を期待して生前贈与をしておいたのに、その恩恵を受けられない、ということになるわけです。

これらのような事態を防ぐには、被相続人が元気なうちにできるだけ早い段階から、計画的に生前贈与を実行しておく必要があります。

ほかの相続人の遺留分を侵害しているケース

被相続人の遺言により遺産を十分に受け取れなかった相続人のなかには、最低限の相続分である『遺留分』を認められている人がいます。
そして、生前贈与を受けた財産のうち、一定の条件を満たすものは、この遺留分を侵害する贈与として、相続財産に持ち戻すこととされています。

生前贈与による遺留分の侵害は、次の3つのケースに該当する生前贈与が行われたときに生じます。

(1)相続開始前の1年間に行われたすべての贈与

被相続人が死亡する直前に行われた贈与は、誰に対するものかを問わず、全てが遺留分侵害の対象となります。

(2)遺留分を侵害する目的で行われた贈与

遺留分の権利を持つ相続人の相続分を減らす目的で行われた贈与は、いつ、誰に対するものかを問わず、全てが遺留分侵害の対象となります。

(3)相続開始前の10年以内に行われた、相続人に対する特別受益に該当する贈与

特定の相続人に対する生前贈与は、『特別受益』に該当する場合があります。
たとえば、その者の住宅購入のために充てた資金や、その家庭の経済レベルを超えた生活費の援助などが、その例です。
このような贈与は、相続人に対するものに限定して、過去10年分のみ、遺留分侵害の対象となります。

もし、生前贈与を受けた相続人がほかの相続人の遺留分を侵害する相続を受けていた場合、その者から遺留分に相当する金銭の支払いを求められる可能性があります。
このような事態を防ぐには、生前贈与をする際に、ほかの相続人の遺留分を侵害しないような贈与額を決めるなどの工夫が必要です。

このように生前贈与は、相続税の節税はもちろん、遺留分を侵害しないよう注意しておかないと、将来相続が発生したときに思わぬトラブルや紛争を招く種となってしまいます。
自分の財産を譲った人に無用な負担をかけたり、残された家族の間で無用な争いを生じさせたりしないためにも、できるだけ早いうちから相続の準備を進めていくことが大切です。

※本記事の記載内容は、2021年2月現在の法令・情報等に基づいています。

https://mi-g.jp/mig/office?office=W6Gb3xGRtpU%3Dより